デジタル・コミュニケーション問題2


給与所得者が収入を増やすには、他者から歓迎されることが重要であり、その歓迎される理由が「親切にする」「丁寧に教える」「怒らない」「お菓子を配る」…などではなく、「デジタル情報」を与えることである、ということを書いた。

他者が取引先であれば取引先に対して、他者が求職者であれば求職者に対して、他者が社内の上司や部下であれば上司や部下に対して、デジタル情報を発信すると、歓迎される。

営業的に云えば、これは受注予備軍を作り出すことにも役立つし、受注すること自体にも役立つし、受注後の運用するところにおいても、トラブルやリスクを回避するところにおいても役に立つ。

デジタル情報の周辺にアナログ情報の余談を配して愉快なコミュニケーションに仕立てるのは大変結構だと思うが、それはその打合せの芯にデジタル情報があることが重要な前提であることを忘れてはならない。核心部分のデジタル情報が一つもなく、なんとなく「ぼくたちって仲良しだよねー」みたいなことを確認し合うだけのようなアナログ情報オンリーの打合せなら、どんなに楽しそうな話を装っても相手の満足度は低下して、ただの雑談にしかならないし、たいていのまともな顧客はただの雑談をしている暇がない。

顧客という他者が「この営業担当者からはデジタル情報が得られない」と判断されれば、「この人と話をしても無駄だ」となって自然と離れていくし、電話が鳴っても不在を装うようになる。

「この人と話をしたくない」「この人と話をしても仕方がない」となれば、営業としての生命は絶たれたも同然で、アポイントも取れないし、成果もあげられなくなる。もっとも相手から「嫌がられている」ことにさえ気が付かない場合は、相手にしてくれる一部の人だけがコミュニケーション対象となって、「なかなかチャンスがないなあ」と思いながら決まりきった相手だけの狭い世界で生きていくより仕方ない。

デジタル情報を出力できる営業担当者というのは、話のできる他者(顧客)の数がどんどん増えていくものである。


まあなんていうか、あまりぴんとこないかも知れないし、そうかなあと思われるかもしれない。しかしながらビジネスは、共感ではなく問題解決であり、問題解決のためには「誰が」「いつ」「何を」「どう」のようなデジタル情報が必要なのだ。

したがって、あまり自覚されないかも知れないが、我々は物凄くデジタル情報に飢えている。ビジネスにかかわる全員、「私」を含めた全員が、デジタル情報を求めている。

にもかかわらず、「私」を含めたほぼ全員が、アナログ情報ばかりを出力している。

みんながデジタル情報を欲しがっているのに、みんながアナログ情報を出し続けているという構図は、まるで、全員が酸素を求めているのに全員が二酸化炭素を吐き出しているという構図と似ている。

各種さまざまな問題の根幹はここにありそうな気がする。

デジタル情報の強力な需要に対して、アナログ情報の旺盛な供給。

アナログ情報というのは、「具体性がない」「はっきりしない」「あいまい」な話なので、ビジネス向きではない。営業のクロージングでは、さまざまな可能性を排除してひとつの結論に限定していく作業になるので、「お時間あるとき」「業務量多いときに」「前向きに」「また次回」…などとやっていても埒が明かない。

そうではあるが、しかし我々が出力しているのは多くの場合アナログ情報であり、同時に受け取っているものもアナログ情報である。

なにしろアナログ情報の供給は旺盛なので、担当者が受け取るAはほぼほぼアナログ情報であり、出力するものもアナログ情報。はっきりしないものを受け取り、はっきりしないものを次の人に渡す。担当者はたんなる運搬人であり伝達者でしかない。ここにValue(ビジネス的価値)はゼロなので、この担当者はいてもいなくても大差ない。会社経営の観点から云えば、この担当者(Conveyer)は負債にしか見えない。

あるべき姿はデジタル変換であり、あいまいで不透明な状況を具体的で透明な状況に変換してくれる人材である。クリアな状況への変換によって「理解」できるし、「検討」できるし、「解決」できるのだ。

顧客からの問合せのメールなどもアナログ情報であることが多く、「よくわからない」ことをそのまま上司に報告すれば、上司も「よくわからない」となり、回答に困って放置するか、電話で話をしてみるしかない。それでも「よくわからない」のだが、「よくわからない」とは言い出せず、結局うやむや。

デジタル変換できない理由は、理解不足であり、理解不足露呈の恐れでもある。たんに国語力・要約力不足、考える力がないのかもしれない。具体的なことを云って否定されたらどうしようという恐怖もあるかも知れない。あいまいで抽象的な話をしている分には、相手から拒否されにくいから。

いずれにしても、莫大に受け取る「アナログ情報」をどのような「デジタル情報」に変換するか、というところがビジネスパースンの力量であり、インテリジェンスもメンタルも含めて、その変換こそがValueを生む。

ホンダセンシングにたとえて云えば、前方を走る車とどの程度の距離が離れているかをフロントワイドビューカメラで撮像し、A/D converterによってカメラで捉えた光の情報(アナログ情報)をデジタル情報に変換して、マイクロコントローラ(高速画像処理チップ)に送る。

マイクロコントローラは、デジタル情報(「0」なのか「1」なのかはっきりしている)しか受け取らないので、「まあまあ近づいたね、でもブレーキを踏むかどうかは微妙だね」のようなあいまいなアナログ情報をそのまま受け取っても、意味が分からない。

実際の社会でもほぼこれと同様のことが起こっており、ブレーキを踏むのか踏まないのかはっきり云える担当者が希求されている。

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